今回は「歯の静脈内鎮静法」について解説します。
目次
歯の静脈内鎮静法とは
眠っているようなふわふわした状態で治療を受けられるのが「静脈内鎮静法」です。
全身麻酔との違いは、眠ってるけど意識はあるという点。そのため麻酔中でも声をかければ反応することができます。全身麻酔の必要はないけど、不安が強く完全に起きている状態では治療が難しい場合に使用します。
歯の静脈内鎮静法の当日の流れ
歯の静脈内鎮静法を受けることになったら、食事制限などいくつか守らなければいけないことがあります。その説明は当日ではなく数日前に行います。
1. カウンセリング
静脈内鎮静法を行う当日、まずは体調の確認や食事制限はできているかなどの確認を行います。静脈内鎮静法を受けたあと車の運転は危険なため、どのような方法で来院されたか聞かれることもあります。当日は電車やタクシーなどを使って来院しましょう。
2. 血圧などの確認
モニターをつけて血圧などを確認します。問題なければそのまま点滴に移っていきます。このモニターを治療中もずっとつけていることで、何か異常が起きても歯科医師がすぐに気づけます。
3. 点滴
患者さんの状態を見ながら、麻酔薬をゆっくりと身体に入れていきます。治療の内容やかかる時間、麻酔の効きやすさ・効きにくさで麻酔薬を選びます。
患者さんは段々眠くなっていき、リラックスした状態になります。
4. 歯の治療
患者さんがリラックスしているのを確認し、歯の治療を始めていきます。モニターにより全身状態を確認しながら治療を進めていくので安心です。もし呼吸のしづらい様子があれば、酸素吸入を行います。
治療中は眠っているような状態ですが、意識が完全になくなるわけではありません。麻酔からさめた後は、治療中のことを覚えていない方がほとんどです。
5. 治療終了
麻酔がさめるころには治療が終わっています。麻酔が完全にさめるまでは数時間かかるため、安全を考慮し1〜2時間休んでから帰宅してもらうことが多いです。
静脈内鎮静法にかかる治療時間
静脈内鎮静法を受けるときは、1時間(治療)+1〜2時間(治療後の休憩時間)くらいはかかると思っておきましょう。治療内容や麻酔の効き具合によってはもう少し長くなることもあります。
静脈内鎮静法で考えられる副作用
静脈内鎮静法を行う前や当日には十分なカウンセリングを行うので、副作用はほとんどありません。我慢して普通の治療を受けるよりは、ストレスや身体への負担はむしろ軽いです。
ただ副作用は100%ないとは言い切れません。これは静脈内鎮静法に限らず、普通の麻酔でもどの治療においても言えることです。
静脈内鎮静法の適応と禁忌
静脈内鎮静法は、不安や恐怖心が強い患者さんに特に有効な方法です。例えば、歯科恐怖症の方や、過去のトラウマがある方、長時間の治療が必要な場合などに適しています。ただし、全ての患者さんに適用できるわけではなく、以下のようなケースでは慎重な判断が必要です。
心疾患や呼吸器疾患がある方
これらの疾患を持つ方は、鎮静薬の影響で呼吸抑制や血圧の変動が起こる可能性があるため、適用に慎重を要します。
高齢者や重度の全身疾患がある方
高齢者や全身状態が不安定な患者さんには、静脈内鎮静法が禁忌となることがあります。
静脈内鎮静法と全身麻酔の違い
多くの患者さんが静脈内鎮静法と全身麻酔を混同しがちですが、両者には明確な違いがあります。静脈内鎮静法は患者さんがリラックスし、意識が薄れて居眠りしているような状態になるものの、完全に意識を失うわけではなく、声掛けに応答することが出来ます。
一方、全身麻酔は意識を完全に失わせ、呼吸管理が必要となります。静脈内鎮静法は、比較的軽度な鎮静であるため、呼吸管理の必要がなく、治療後の回復も全身麻酔に比べて早いのが特徴です。
どちらも麻酔科医の立会いのもとに、脈拍や血圧などをモニタリングしながら安全な状態で行われます。
静脈内鎮静法のメリットとデメリット
メリット
- 不安や恐怖心を大幅に軽減
- 手術中の記憶がほとんど残らないため、患者さんの精神的負担が少ない
- 治療中の協力が得やすい
デメリット
- 一部の患者さんで吐き気やめまいなどの副作用が出る可能性がある
- 使用する薬剤により、稀にアレルギー反応を起こすことがある
治療後の注意事項
静脈内鎮静法を受けた後は、完全に正常な意識が戻るまでに時間がかかることがあります。そのため、治療当日は自動車の運転を控え、家族や友人に送迎を依頼することが推奨されます。また、鎮静薬の影響が数時間続くため、重要な判断を要する仕事や作業も避けるべきです。
静脈内鎮静法は保険適用される?
静脈内鎮静法は、パニック障害や歯科恐怖症など、全身状態によっては保険がききます。ただインプラントや歯列矯正など、保険外(保険がきかない)治療の一環としての麻酔は保険がききません。
静脈内鎮静法に関するQ&A
静脈内鎮静法は、患者さんが眠っている状態で意識は保たれつつ、不安や痛みを軽減するために静脈を介して鎮静薬を投与する治療方法です。全身麻酔と異なり、意識はあるため、治療中に患者さんに声をかけられる状態です。
静脈内鎮静法の副作用はほとんどなく、事前のカウンセリングで患者さんの状態に合わせた治療が行われるため、ストレスや負担が少ないです。ただし、完全に副作用がないわけではなく、麻酔に関連するリスクは全ての治療で考慮すべきです。
歯の静脈内鎮静法は基本的には大学病院や大きな病院で提供されていますが、一部の町の歯医者さんでも受けることができます。受けることができるかどうかは、必要な設備や環境が整っているかどうかによります。
歯の静脈内鎮静法についてまとめ
「眠っているのに意識がある」という不思議な感覚になる静脈内鎮静法ですが、受けられる場所が限られていたり回復に時間がかかるなどデメリットもあります。
ただ歯の治療に対して強い不安があったり、緊張が強かったりという方は、無理せずこのような方法を取りましょう。むしろ取った方が安全です。静脈内鎮静法を行なっている間は、常にモニタリングで血圧や心拍数、呼吸数などの管理が行われているので安心です。